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新嘗祭

にいなめさい

 新嘗祭(にいなめさい)は、毎年11月23から24日にわたり、天皇陛下によって行われる収穫祭であり、宮中最大の重儀である。豊穣を祈願する2月の祈年祭と対置され、全国の神社でも執り行われている。この日、皇居内の宮中三殿の西側・神嘉殿(しんかでん)に、天照大神はじめ神々を招き、天皇陛下が新穀の米、粟その他の神饌(しんせん)で自らもてなし、その後神饌の一部を食される。
 新嘗祭当日、神嘉殿内には神々のための神座と、それに向い合って天皇の御座が用意される。天皇陛下はそこに正座し、柏の葉でつくった小皿に箸で神饌を盛り分け、神々の御前に並べてすすめる。この神々への供進を御親供(ごしんく)といい、一品ずつ行われるため約2時間という長時間を要して行われる。御親供が終わると、陛下は拝礼して御告文(おつげぶみ)を奏上し、続いて、神饌と同じものを食する御直会(おなおらい)の儀に入る。午後6時から行うこの一連の流れを「夕(よい)の儀」といい、午後11時から翌午前1時まで全く同じ御儀「暁(あかつき)の儀」が再び行われることになっている。
 新嘗祭の特殊性はその装束にも表れていて、普段天皇陛下が神事で用いられる御束帯黄櫨染御袍(ごそくたいころうぜんのごほう)と異なり、御祭服(ごさいふく)という白い装束が用いられる。これは一代一度の大嘗祭と新嘗祭にしか使用されることはない。また冠も、普段はピンと立った立纓(りゅうえい)だが、御祭服ではそれを前に曲げて紐で括った「御幘(おんさく)冠」である。これらのことは、新嘗祭という重儀に対する「謹慎と清浄」の姿勢を意味するという。
 皇太子(今回から皇嗣殿下)はというと、やはり普段(黄丹袍・おうにのほう)と違う白色無地の斎服(さいふく)を着て参列されることになっている(皇后・妃の参列はない)。
 新嘗祭の由来は、神話に求めれば天照大神が自身で新嘗を行なったとされ、稲作の発生以来、各地で収穫感謝の神事が行なわれているので弥生時代までさかのぼると考えられる。『日本書紀』には、仁徳天皇40年、「新嘗の月に当りて、宴会の日を以て酒を内外命婦等に賜ふ」という記述がみえる。
 古くは大嘗祭と称していたが、天武天皇のころ、即位して最初に行われるのを大嘗祭、毎年のもの新嘗祭と区別することとなった。
 後花園天皇の寛正以後280年間中絶してしまい、桜町天皇の元文5年再興されたが御殿が代用されるなどしばらくは不完全なものであった。光格天皇の寛政3年に神嘉殿が再建され元に復し、明治天皇が東京に移られると皇居に神嘉殿が立てられた。
 明治期には、明治5年以降、伊勢の神宮でも勅使が差遣されて新嘗祭が執り行わるなどの展開もあったが、基本的な要素は変わらずその後も古儀が尊重されている。明治6年の皇居炎上後しばらくの赤坂仮皇居内移転を挟み、同22年の造営以後は現在の神嘉殿で行われるようになり今に至る。
 新嘗祭に用いられる神饌は、当年の新米・新粟をもって炊いた御飯および御粥、新米で醸造した白酒・黒酒のほか、魚、果実、汁、羹(あつもの)など多種多様である。
 新米・新粟は、明治25年以来各都道府県から献穀されることになっており、毎年10月下旬に行われる「新嘗祭献穀献納式」には、各地から選ばれた生産者が参列し両陛下のご会釈を賜っている。ただ今年(令和2年)は、新型コロナウイルス感染予防のため、「献納式」は行われず、配送される形に変更となった。(「御苦労いかばかりか」陛下、農家を気遣われ…生産者が心を込めた「逸品」を神前に」『産経新聞』令和2年11月21日Web)
 また、皇居では昭和天皇以来、天皇陛下自らが皇居内で稲作を行っておられる。今年9月15日、陛下は稲刈りを終えられた際に、宮内庁を通じ次の感想を文書で公表された(下記全文)。
「本年、種籾まき、田植え、そして稲刈りまでの一連の作業を初めて経験することによって、我が国の農耕文化の中心である稲作への思いをより深めることができました。本年は、豪雨等による被害や新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、農業に従事されている皆さんの御苦労もいかばかりかと思います。そうした中、実りの秋を迎え、各地で収穫が無事に行われることを願っております」
(「朝日新聞デジタル」令和2年9月15日)
 なお、新嘗祭の様子は、平成25年(2013)12月23日に公開された映像「天皇陛下 傘寿をお迎えになって」(下記URL)でその一部を視聴することができる(47分頃から)。
https://nettv.gov-online.go.jp/prg/prg9049.html
 この映像資料には「お田植え」や「新嘗祭献穀者ご会釈」(46~47分頃)などの様子も収録されている。

【参考文献】
・八束清貫「皇室祭祀百年史」『明治維新 神道百年史』神道文化会
・『神道事典』弘文堂
・『国史大辞典』吉川弘文館
・宍戸忠男「御大礼諸儀と御装束ー両陛下の装いを中心としてー」『モラロジー研究』85号

(橋本富太郎)