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講書始

こうしょはじめ

 「講書始」は、正月の宮中恒例行事の一つである。人文科学・社会科学・自然科学の三分野から学界の第一人者が3名選ばれ、皇居宮殿「松の間」において、各15分の御進講を行う。
 現在の「講書始」は、明治2年(1869)1月23日に行われた「御講釈始の儀」に由来する。御講釈始は恒例化し、皇后も同席され、和漢洋の御進講が行われることになった。大正15年(1926)公布の「皇室儀制令」第五条に、「講書始の式及び歌会始の式は、一月宮中に於て之を行ふ」と明文化されている。
 戦後は昭和28年(1953)から、毎年1月10日前後に、人文科学・社会科学・自然科学それぞれの学者が御進講を行うようになった(必ずしも各分野1人ずつとは限らない)。
 当日は、皇居宮殿「松の間」に、天皇陛下・皇后陛下を中心として、成年皇族が参列される。また、招待を受けた人々(文部科学大臣、日本学士院・日本学術会議の代表者、次年度の御進講予定者など)も列席し、御進講を陪聴する。
 今上陛下の「講書始」は、令和2年(2020)1月14日に初めて行われた。その際の進講者と題目は、次の通りである。

東野治之(奈良大学名誉教授)「遣唐使に見る日本の対外交流」
斎藤修(一橋大学名誉教授)「歴史のなかの工業化」
長谷川昭(東北大学名誉教授)「沈み込み帯の地震の発生メカニズムと火山の成因」

 なお、今年(令和3年)は新型コロナウィルス禍のため、「歌会始」と共に延期となっている。

【コラム】明治初年の御講書始
 皇室は大昔から学問を尊重され、歴代天皇ご自身が学問を奨励し文化の発展を進めてこられた。その一例が明治以来の「御講釈始の儀」=「講書始」である。
 明治2年(1869)の御講釈始では、明治天皇に対して、玉松操と平田鐵胤が『日本書紀』の神武天皇紀を、また東坊城任長が『論語』の学而篇を、さらに中沼了三が『大学』の三綱領を御進講している。
 明治5年には「御講書始」と改称され、和漢の書に加え、加藤弘之による洋書の御進講があった。これ以降、ほとんどの年に和漢洋の御進講が行われている。
 なお、皇后の御講書始へのお出ましは、明治6年以降のことである。
 明治初年の御講書始においては、先述の5名のほか、国学者の福羽美静や本居豊穎、歌人の渡忠秋、漢学者の元田永孚や近藤芳樹、洋学者の西村茂樹など、普段の御講学などに奉仕した碩学による古典や歴史書の御進講が多い。御講書始の御進講に用いられた書籍の一部を、和漢洋に分類して示せば、次の通りである。

和書(国書):『日本書紀』、『古事記』、『万葉集』、『釈日本紀』、『古今和歌集』、『令義解』、『続日本紀』、『延喜式』、『禁秘抄』、『祝詞式』、『出雲風土記』、『古語拾遺』など
漢籍:『論語』、『大学』、『書経』、『帝鑑図説』、『詩経』、『易経』、『礼記』、『貞観政要』、『中庸』など
洋書:ブルンチュリ著『国法汎論』・『公法会通』、スマイルズ著『西国立志編』、アンドリュー・ヤング著『政治学』、チェンバース著『英国史』、ヒコック著『修身学』、モンテスキュー著『法の精神』など

(後藤真生)

【参考文献】(敬称略)
・宮内庁書陵部編刊『皇室と御修学』(平成23年)
・所功著『天皇の「まつりごと」』(日本放送出版協会、平成21年)
・皇室事典編集委員会編『皇室事典 令和版』(KADOKAWA、令和元年)
・KADOKAWA編刊『天皇皇后両陛下が受けた特別講義 講書始のご進講』(令和2年)
・宮内庁HP「講書始の儀におけるご進講の内容(令和2年1月14日)」
 (https://www.kunaicho.go.jp/culture/kosyo/kosho-r02.html