文春新書『皇位継承』「増補改訂版に寄せて」
この小著が「文春新書」の創刊第1号として世に出たのは、平成10年(1998)10月である。「皇位継承」というテーマは、当時まだ論壇などで余り注目されていなかったが、これを真正面から採りあげた創刊関係者(編集部長白川浩司氏など)の卓見に、今あらためて敬服するほかない。あれから二十年近く経って、高橋紘氏が序章で警告した「皇位継承の危機」は、残念ながら年々深刻化している。
秋篠宮家に約四十年ぶりで男性皇族の悠仁親王が誕生された一方で、高円宮憲仁親王、寬仁親王、桂宮宜仁親王の三兄弟、そして父君の三笠宮崇仁親王も薨去された。序章執筆時には七人おられた皇位継承資格者が、いまや四人になってしまわれたのである。
女性皇族でも、今上陛下の長女である清子内親王と高円宮家次女の典子女王が民間男性と結婚され、皇籍を離れられた。さらに秋篠宮家長女の眞子内親王も、民間男性と婚約して、今秋に挙式が予定されていたところ、複雑な事情により挙式は大幅な延期となっているが、いずれ皇籍を離れられること自体には変わりがない。
このような事例が今後も続けば、皇室の構成はどうなっていくのか、一般の国民としても無関心ではいられない。また、それ以上の重大事は、約二百年ぶりの“譲位”による皇位継承がどのように行われるかである。そんな背景もあるためか、「皇位継承」の来歴を解明し、問題点を指摘した本書の増刷を望む声が急に高まってきたという。
そこで、この機会に、平成10年以来の「皇位継承」問題をめぐる動向と、昨年成立した「皇室典範特例法」および来年の“高齢譲位”に伴う儀式と将来への展望を書き加えた増補改訂版として出すことが決められた。しかも、高橋氏が同23年9月30日満70歳寸前に他界しているため、その執筆は相棒の私が引き受けることになった。
これは宮廷関係の法制文化史を研究しながら、皇室の永続を念願している私にとって、まことにありがたい。しかも、実は同じ文春新書から『元号 -年号から読み解く日本史』の執筆を依頼され、数年前に『日本年号史大事典』を一緒に作った若い研究者に協力してもらい、現在、仕上げの最中である。その合間を縫って、新たに第七章と第八章を書き加えた。
この増補改訂版を発案され担当してくださった文春新書編集部の吉地真編集長と前島篤志副編集部長に、心から感謝の意を表したい。
平成30年(2018)2月吉日
所 功