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生物学御研究所

せいぶつがくごけんきゅうじょ

 昭和3年(1928)、皇居吹上御苑の東南に設けられた昭和天皇の研究施設(略称「生研」)。鉄筋(一部木造)2階建ての本館(1420㎡)と、標本を納める付属棟(315㎡)から成る。立川市の昭和天皇記念館に生研の御研究室が復元されている。
 昭和天皇は、お若いころから動植物を分類する分類学の研究(特に、変形菌類とヒドロゾアの分類)に取り組まれ、週3回生研に通われたという。赤坂離宮や那須御用邸などで個体を採取し標本(6万3000点)として保存され、御公務の合間に御研究を続けられた。
その御研究には、富山一郎氏(侍従職御用掛・元東京大学助教授・魚類分類学専攻)や酒井恒氏(元横浜国立大学教授・甲殻類研究者)、原寛氏(東京大学名誉教授・植物分類学者)などが、長年にわたり奉仕した。この人々の逝去を悼まれた御製が所功博士編著『昭和天皇の大御歌』に見え、例えば次の一首は、晩年の草稿から発見されたものである(補章37番)。
   (酒井恒氏の逝去に際して。昭和61年)
  幾年もかにのしらべにつくしたるはかせきえしはなみだなるらん
 
【コラム】上皇陛下のハゼ研究
 上皇陛下も、父君の昭和天皇と同様、御公務の合間に、生物の分類研究に努められてきた。
 平成19年(2007)5月、リンネ生誕300年の記念行事がスウェーデンとイギリスで催された際、公式に招かれた天皇陛下は英語で基調講演をされた。その主席随員を務めた野依良治博士によれば、これを聴いた世界の科学者たちが、日本の天皇は素晴らしい科学者であり、そのような天皇を戴く日本はなんと素晴らしい国かと絶賛したという。御講演の内容は、宮内庁侍従職編『天皇陛下 科学を語る』(朝日新聞出版、平成21年)や宮内庁編『道 天皇陛下御即位三十年記念記録集』(NHK出版、平成31年)に掲載されている。
 この御講演によれば、日本の分類学も進展し、日本産の種子植物・シダ植物・魚類を除く脊椎動物には、すべて学名が付けられているが、魚類(特にハゼ亜目魚類)には、学名の付いていないものが多い。
 上皇陛下は、ハゼ亜目魚類について、形態に注目した分類学的研究を進め、頭部孔器の配列による分類を試みて、昭和42年(1967)、『魚類学雑誌』に御論文を発表された。そこで行われた孔器の配列による分類が、今ではハゼ亜目魚類分類の中心になっている。最近は、電子顕微鏡を使った分子生物学(DNA分析による分子レベルでの分類研究)にも努められている。

(後藤真生)

 
【参考文献】(敬称略)
・所功著『天皇の「まつりごと」―象徴としての祭祀と公務』(日本放送出版協会、平成21年)、同著『皇室に学ぶ徳育』(モラロジー研究所、平成24年)、同監修『初心者にもわかる昭和天皇』(メディアックス、平成25年)、同編著『昭和天皇の大御歌』(角川書店、平成31年)
・伊東俊太郎「天皇陛下と学問」(『文藝春秋』平成11年10月号)
・宮内庁編『道 天皇陛下御即位三十年記念記録集 平成二十一年~平成三十一年』NHK出版、平成31年)
・宮内庁三の丸尚蔵館編『御製・御歌でたどる両陛下の30年』(菊葉文化協会、平成31年)