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賢所御神楽の儀

かしこどころみかぐらのぎ

 賢所には、皇祖神であり全国民の総氏神とも仰がれる天照大神が祀られている。毎年12月中旬(ほとんど15日)、天照大神が1年にわたり国家・国民をお護りくださったことに感謝して、賢所(もと内侍所)南庭の神楽舎から、宮中独自の「御神楽」が奉奏される。
 この祭儀は、平安中期の一条天皇朝から臨時に始まり、まもなく師走の恒例行事となった。それ以外に朝廷の重大事に勅命で行われ、明治以降も一代一度の大礼終了時などに行われている。
 その当日の夕方6時ころ、天皇陛下をはじめ成人皇族たちの拝礼後、賢所側(北側)だけ開き三方を幕で囲った神楽舎において御神楽が奉奏される。
 宮内庁楽部の楽人が、本方と末方に分かれて座り、和琴・笛・篳篥などにより秘曲を奏して「神楽歌」を唱歌する間に、舞人の人長(にんじょう。進行役)が榊を手にとって静かに舞う。それが深夜の12時ころに終わると、榊は賢所の神前に奉られた後、掌典長が侍従長を介して御所の天皇陛下に献上するといわれている。
 なお、祭儀の行われる6時間余り、楽人や舞人の足元をほのかに照らす庭燎(にわび)が前庭に設けられ、その焚き役を掌典職などが務めることになっている。

【コラム】宮中の「御神楽」
 「かぐら」の語源は「神座」(神の座所)に由来するといわれているが、「神楽」と書くことにより「神様が楽しみ喜ばれるように奉奏する歌や舞」を指すとみられている。
 神楽には、大別して宮中独自の「御神楽」と民間の「里神楽」があり、その両方に関係の深い「神社神楽」が全国で盛んに行われている。
 この御神楽については、部外者の知りえないことが多いけれども、史資料の調査研究がないわけではない。例えば近年、中本真人氏は『宮廷御神楽芸能史』(新典社、平成25年)所収論文で、前史の賀茂・石清水の臨時祭における御神楽などをはじめ、一条天皇朝における「内侍所御神楽」の成立経緯や平安後期における御神楽関係の説話・伝承について詳論し、さらに中世以降の研究も進めておられる。

(後藤真生)

【参考文献】(敬称略)
・本田安次『神楽』(木耳社、昭和41年)
・松前健「内侍所御神楽の成立」(『古代伝承と宮廷祭祀』所収。塙書房、昭和47年)
・八束清貫「皇室祭祀百年史」(神道文化会編刊『明治維新神道百年史』第一巻所収、昭和59年)
・所功『天皇の「まつりごと」』(日本放送出版協会、平成21年)
・皇室事典編集委員会編『皇室事典 令和版』(KADOKAWA、令和元年)
・宮内庁HP「主要祭儀一覧」
 (https://www.kunaicho.go.jp/about/gokomu/kyuchu/saishi/saishi01.html
・宮内庁書陵部所蔵資料目録・画像公開システム『公事録』附図(うち「内侍所臨時御神楽之図」)
https://shoryobu.kunaicho.go.jp/Toshoryo/Viewer/1000077540000/bec0ea3f5a2548a2a41b99fcc5c500b1
・国文学研究資料館新日本古典籍総合データベース『恒例臨時公事録』第43冊「内侍所臨時御神楽」
 (https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100275909/viewer/1
・テレビ東京ビジネスオンデマンド「両陛下 賢所御神楽の儀 即位儀式締めくくり」
 (https://txbiz.tv-tokyo.co.jp/txn/news_txn/post_191767/