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天皇と相互の「信頼と敬愛」

平成29年1月17日

昭和天皇も今上陛下も確信された「信頼と敬愛」(所 功)

平成28年8月に公表された「象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば」には次のような一節があります。(全文は宮内庁ホームページより。ミカド文庫「今上天皇の歩み」 )

「皇太子の時代も含め、これまで私が皇后と共に行なって来たほぼ全国に及ぶ旅は、国内のどこにおいても、その地域を愛し、その共同体を地道に支える市井の人々のあることを私に認識させ、私がこの認識をもって、天皇として大切な、国民を思い、国民のために祈るという務めを、人々への深い信頼と敬愛をもってなし得たことは、幸せなことでした。」

この「お言葉」を拝聴した途端、私(所)は昭和21年(1946)元旦公表された「新日本の建設に関する詔書」の一節を思い起こしました。あの詔書は俗に「天皇の人間宣言」などといわれていますが、そんな薄っぺらいものではありません。原文を通読すれば誰でもわかるとおり、冒頭に明治元年(1868)の「五箇条の御誓文」の全文を掲げ、「叡旨、公明正大、また何を加へん。……すべからくこの御趣旨に則り、新日本を建設すべし」との基本方針が示されています。その上で、文中に次のように仰せられているところにこそ、大きな意味があると思われます。

「朕(天皇)と爾(なんじ)ら国民との紐帯は、終始相互の信頼と敬愛とによりて結ばれ…」

つまり、天皇と一般国民との関係は、古来いろいろ変遷があったにせよ、あの4年近い苛烈な戦争に敗れても、常に相互の「信頼と敬愛」は変わっていない、と詔書で明言することのできるような固い絆で結ばれていたのです。
ただ、それが被占領下で作られた日本国憲法に、国家・国民統合の「象徴」と定められた天皇が存立する根拠は「日本国民の総意に基く」とされています。その皇位を「世襲」により継承された今上陛下は、「象徴としての役割」を十分に果たされなければ「国民の総意」に応えることができないと考えられ、その「お務め」を「人々への深い信頼と敬愛をもってなし得た」と確信できるほどの実績を積まれたからこそ、万感の思いをこめて「幸せでした」と仰ったのでありましょう。

「ミカド文庫」には今上天皇の「象徴天皇としてのお務めに関するお言葉」とともに昭和天皇の「新日本建設に関する詔書」も全文を掲載しています。それぞれ丹念にお読みくださり、昭和天皇から今上陛下へと継承された、あらゆる国民への深い「信頼と敬愛」に思いをいたしていただければ幸いです。

(参考文献)所功『象徴天皇「高齢譲位」の真相』(ベスト新書、2017)

新日本の建設に関する詔書

象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば(平成28年8月8日)